第四回ナロラボ杯の、参加作品についての座談会


 短編レビュー企画(ナロラボ杯)の座談会です。参加作品のweb小説を褒めたり、解説したり、詳しく批評したりしています。

短編小説レビュー企画の裏側


 ナロラボの調査結果×キカプロ合同企画「第四回 評価シート付き小説レビュー企画」を終えて、参加作品についての座談会をしました。その時の会話を作品別に掲載しています。

 会話内容はブログ記事として読みやすいように編集してあります。

今回の審査員はこちら。

クロスグリ
 ライトノベルを愛する書き手兼レビュアー。他人の文章にはうるさく、一癖ある作品が好み。短編作品においては無駄の少なさとオチを重視いたします。好きな短編小説は、時雨沢恵一「キノの旅」  web小説やライター活動の専門サイトを運営中。主にハウツー記事を掲載しています。依頼制の作品レビューもしているので、気になった方は下記のリンクからご連絡ください。


 美風慶伍
 怒涛の60本レビュー連続投稿でレビュワーデビューした怪人。SFアクションの特攻装警グラウザーシリーズを中心にかなり昔からなろうに生息している。その上インターネット成立以前から小説同人界に居たと言う化石のような人。そのためか一部から『老師』と呼ばれる。
 レビュー方針はその作品の面白さの核を徹底的に持ち上げると言うもの。その為、面白さの核心をさぐるため徹底的に読み込む。ただしダメ出しは非常に辛口で容赦ない。


Victor
「小説家になろう」にて累計レビュー数2位。また同サイト内で自身の作品を連載中。
 日本の反対側住地。毎日猛暑ばかりで、今日も暑いと漏らす。いつの間にレヴュー数がすごいことになっていたけれども、そんなことを気にすることなく面白い作品があれば勝手に紹介していくスタイル


応募作品を全て読み終えて



 全員の評価・コメントの記入が終わりました。皆さんお疲れ様でした。

 ワシの採点、甘かったかなぁ……(ーー;)

 いやたぶん、読み終えた時間の差だと思いますよ。僕は2人よりも遅かったので「自分はバランスとって、もっと厳し目に読もう」と思っていたので。今回はハイレベルだったので、たぶん僕が進行早かったら、同じような点数になったかと。

 そういっていただけるとホッとします。何分こう言う20作品を同時に採点するのは、大量レビューとは勝手が違ってましたんで戸惑いました。

  今回のク・リーグは本当にいろいろな作品に出会えました。私自身も大変勉強になりました。総合的に見てクロスグリさんはどう感じました?

 正直なところ、この作品たちに点数つけるのは厳しかったですね。優劣をつけられるような違いはあまりなかったかと。ただ、どうしても優劣をつけないといけないので、心を鬼にしなくちゃいけなかったという。コメントを辛くしすぎたり、点数を控えめにしすぎたり、心残りな部分は結構あります。

  そのために、結果的に僕がプレーオフ進出作品を操作したっぽくなっているんですよね……。そりゃ個人的には、カナリア、ウナギ、ブリキ、人妻は頭一つ抜けていると感じましたが、おふた方的にはどうだったのかなと。ちょっとそこが心配ですね。

 点数差を付けないと、選考になりませんからねぇ。私も最後はもう減点要素を小姑の嫁いびりレベルで探しまくりました(笑)

 私は結果的には納得しています。特にカナリアは決して悪い作品では無かったですから。特に、今回はいい作品は本当に皆レベルが高くて、差をどうやってつけるか、それにひたすら悩みました。満点をだしまくるわけにも行きませんでしたし。

  最終選考推しをしたのはウナギ、ブリキ、人妻と祭りの夜だったのですが、カナリアとは僅差だったので、この結果に疑問も不満もないです。むしろ、選考において重要な部分をクロスグリさんにおしつけてしまったかなぁと反省しています。もう少し、細かいところまで読みこなせる力を養いたいです。

 これはレビュアーの宿命ですが、明らかに自分より上手い作品の粗を探すのって、すごい嫌な気分になりますもんね。「俺なんでケチつけてんだろ?」みたいな。今回の作品はほとんど僕より上手かったですし。

 あぁ! すごい分かる! ほんとそう思います! 自分、歳が50近いんで若い人にケチをつける嫌な爺さんと化してました(笑)  せめて、作者さんにこれから作品を新たに書く時にどう言う風に改善していけばいいか? をアドバイスとして伝えることを一番に心がけてました。

 しかし、こう上手い作品をいくつも読んでいると、こちらとしても執筆のモチベーションが上がってきますよね。参加者に回ったらどういう気分になるのか気になりますし。こちらとしても、書き手として負けたくないものですから。

 そうですよね。やっぱり自分が書いてみたいです。次回は参加者枠でチャレンジしたいですね。あとは自分で短編コンペを開催してみたいです。

  400字詰め原稿用紙11枚限定、4400字までの短編コンペを考えてます。この字数で昔短編合同誌を作ったことが有るので、今の人たちならどんな作品が出てくるだろう?と思います。

カナリアの空




 まず僕としては「カナリアの空」は非常に押していて、確かにプレーオフ進出作品はどれも頭一つ抜けていたんですが、アレだけは別格だと思ったんですよね。

  ナロラボ杯の評価項目と相性がいいというのもありますが、1万字程度であれだけの世界観と、キャラ描写を詰め込んで、シナリオを綺麗に終わらせたのがもう化物すぎて。  キャラの印象をくるりと変えるのも上手でしたし、伏線も説得力をもたせていましたね。

 そうですね。特に後半以降の展開と流れが圧倒的で、なによりドラマ展開に『説得力』がすごかった。キャラの動きも心理の変化も無理がない。本当に死角のない作品でした。相当に経験を積んでらっしゃるとしか思えない書き手さんだと思いましたね。

  唯一、キャラが人種として人間なのか獣人なのか、それ以外なのかが冒頭の流れではよくわからないのが気になりましたね。それがあって少し点を引いたんです。それ以外は満点レベルでしたね。

 犬か人か確かに悩みましたね。途中から人であることに気づくと面白みが出てきて、惹かれました。少女と犬、というイメージで進んでいたせいでちょっと惜しいと気持ちがしますね。

 そうなんですよね。序盤がとにかく惜しくて。自分も最初はまんま小鳥と犬で脳内再生してました  自分はそこで評価点数迷ってて。読みやすさを3.5か4にしようと思っていたのですが、他の文章についてはそんな問題はなかったので4にしました。あれほどの作者なら序盤のわかりにくさにも気づくと思うのですが、なんでああなったんでしょうかね。

 多分、書き手として自分がわかってる事と、読み手にむけて説明しないと行けない部分が、ごっちゃになって書き手視点のままで書き終えて校正の段階でも気づかなかったんでしょうね。

 単純に時間がなかったからというのもありそうです。掲載日を見ると2017年 10月28日で、明らかにこの企画のために投稿したんだと思います。あそこまで世界を作ってたら、たしかに文章化する時に、どこかでエラー出しそうですけどね。

 書き終えて未構成でそのまま……だったのかもしれませんね。その辺を慎重に処理すれば満点Sランクもあったかもしれないですね。

 あれ推敲なしだったらガチの天才というか、おそらく奇人変人の類ですね笑

 神がかりなかたですよね。まさに。

 ただ、あれはあまり細かに説明してしまうとオチの感動の中心をになってる部分まで冒頭でネタバレしかねない、非常に難しい伏線とプロット構造だったのでその辺のバランスに苦労してたのかもしれません。

 3回も参加してたそうですし、それで4回までの短い間であそこまで練り上げるっていう。同じ書き手としても想像できないです。

 直感と考察と感性と理論がパーフェクトな作品でした。このまま決勝リーグでも頑張って欲しいです。

作品名




 ただ他の作品も良くて、特にプレーオフ進出作品は頭一つ抜けていましたよね。ウナギも本来ならトップ通過は余裕のレベルでしたし。

 ウナギのほうはいろいろと考えさせられましたね。日系人ですがこんな考えできる人すごいな、思い、同時によくも短編にこんだけ詰め込んで15000字以内に収めることができるとは。

 ワタシ的にはウナギが一番推しだったんです。エンタメとして完成度が高く、目立ったミスも見受けられなかったので。

 ウナギ美味そうと思わせ、日常から豆知識にビジネスにてんこ盛りですよね。

 思考実験物にありがちな「説明が複雑になって、読者を置いてきぼりにする」問題をクリアしていましたしね。必然的に説明が多くなって、それが小説らしさを損なっているのですが、それを踏まえても綺麗な文章だったかと。

 そうですね。カナリアやブリキとも共通するのですが、作品の全体プロットの流れの中で登場人物たちを動かしていて、それが背景設定や伏線に飲まれないで、紙面から自然に伝わってくるんですよ。キャラが非常にイキイキしている

 後は短編なのに「留学生増加」というサブプロットを入れてるところとか。普通ならウナギ絶滅対策だけでも精一杯になりそうなところに、拳一つ分の余裕を作っていて憎いんですよね。

 あと笑える小ネタや演出がてんこ盛りでいて消化不良になってない。全部お話とキャラの魅力として生きているんですよ。おねショタ、人生リターンマッチ、結婚ドラマ、サクセスストーリー、ビジネス劇、外国人コメディ……どれだけ盛り込んでるのかって話です。

 プロットの流れとしては本当に綺麗でしたよね。外国人だからウナギとウサギを間違える……という何でもない小ネタが、本題へとつながっていくという。オチも「ウナギは精力増強効果あるらしいよ」という小ネタを使って、本題からフェードアウトして終了という。

 しかもそのオチでタイトル回収と言う。お見事でした。しかし、オチの段階で二人目出来てたわけですから、ヒロインの外国人奥さんの肉食っぷりで笑わせてもらいました。

 ただまぁ、これだけ完成度が高かったので「萌え」については厳しく見てしまいました。いや十分だとは思うのですが、「この作者ならもっとできるはず!」という気分になってしまいまして。自分が日系ブラジル人というのもあり、身近な外国人が多いから、そう考えちゃったのかもしれません。

 あぁ、なるほど。そう言う視点もありますね。わたしはヒロインのキャラはお腹いっぱい状態だったんです。これだけ萌え要素があれば十分だろうと。国際結婚おねショタって言うだけでもすごいだろうと。

 なにより、不幸の縁からの復活ドラマってのがさり気なく感動的に見えたんです。たんなるお笑いに終わらせない志の高さを感じるいい作品でした。

 これは日系ブラジル人の話なんでポルトガルではないのですが、今は日本の景気が悪いので、ブラジルに帰っちゃう人が多いんですよね。僕の親戚なんかもそうで。だからヒロインやその家族を見て「日本に残る選択をするんだ」と思ったり。作品のクオリティとは全然関係ないんですけど、あれだけ具体性が高いと、読んでる方としても欲が出ちゃうというか笑

 そうかぁ、作品の中身の登場人物の立場に近いファクターを読み手が持っていると、さらに深いところでの描写とかをどうしても期待しますよね。内情を知ってるからこそ、もっと深いところを見せて欲しいみたいな。

 たぶん普通の日本人だったらそんなこと考えないので、別に書かなくても問題ないんですけどね。それ以上に色んな要素を詰め込んでて、全部成立させちゃうわけですから。

ブリキの国




 ブリキのほうはウナギとは対照的に「一点特化」というかなんというか。短編らしい作品ですよね。

 そうですね。単視点一人称をひたすら愚直に貫いたという。言うなればすごい『硬派』な作品だとおもいました。正直、オチは分かっちゃんたんですよ。読み始めに。でも、それがその見えているオチに繋がった瞬間にすごい感じるものがある。

 自分は中盤くらいでぼんやりとオチが読めたんですが、別に期待はずれという気分にはなりませんでしたよね。正直、他の作品だとそういうふうに思ったものがあるのですが。

 オチが見えると言うのは普通マイナス要素なんですが、ブリキに関してはそうじゃないんですよね。むしろ、その見えているラストに向けて動いていく物語そのものを楽しめると言う。これは書き手が物語の世界観を作り上げるのが見事に成功しているのだと思います。

 一人称視点だからこそ、もの悲しさがあると言いますか。オチで予想が確定した時に、主人公について思いを馳せてしまうんですよね。「どうしてこう考えるようになったんだろう」とか「どうしてそういう行動を移してしまうんだろう」とか。

 そう、その主人公が内面で抱いている感情や思いその物から目が離せなくなる。そしてそれが〝老人〟の登場で劇的に流れが代わる。そこでブリキの兵隊と言う言葉の印象と意味が変わり始める。その瞬間が素晴らしかったです。なによりセリフの一つ一つがすごい印象的で。その意味では『感じさせる物語』として成功していたと思います。

 ブリキのほうは二度ほど読み返して納得させました。いまいち理解できなかったので読み返してその意味がわかってから、そういうことなんだなと。あえて人ではなくブリキにすることでその視点から観える景色を映す。

 それで序盤を読み返して「感情を失った仲間」とか「感情を取り戻す方法」で、主人公について考えていたのが、主人公とその仲間たちへと広がっていくという。たぶんもっと広げれば現実問題へと繋げられるでしょうし、こうなると文学なんですよね。

 SFとして捉えがちですが、主人公の〝自我〟にまつわるドラマだとするならば、たしかに文学の域に入っていると思います。ただそれだけにあの雰囲気に入れるか入れないかで、読者を選んでしまうきらいはあると思います。

 実際、この企画だとSF作品が多くなるとみんな思っていて、ブリキも「SFなんだな」と思って読んでいたわけですが、普通のSFとはちょっと違っていて違和感は感じましたね。

 そう言う意味でも、あれは厳密なSFとして捉えるのはもったいない作品です。SFの革をかぶった別な何かかもしれません。

 SFにありがちな、一般人には難しい説明とか、あえて複雑な言い回しとか出てこないですからね。そのおかげかファンタジーっぽさが出てるという。

 逆にSFで無い何かとしての見せ方を徹底したことが良かったのかもしれませんね。

 今ブリキの小説情報を見たら、これ童話ジャンルだったんですね。えー、確かに読みやすさは重視してるけど、子供に分かるかなぁ……。

 童話……、改めて確認するとちょっとびっくりです。ただ確かに物語のロジックや表現のレトリックは、童話かもしれませんね。

 あと、書き手の方は短編へのお話のまとめ方を分かってらっしゃる方だと感じましたね。大きな世界観を無理に詰め込んだのではなく、短編の文章量で入る情報料をしっかりとわかった上で、主人公から見た一人称視点の物語として仕上げている。そのあたりのまとめ方の技術も非常に高いと思います。素晴らしい削皮でした。

 オチにすべてを捧げてますからね。無駄なものをいっさい入れていないですし。まさにセオリー通りで。大抵はどこかしら消化不良になったり、オチが中途半端になってしまったりするのですが。

 正直自分はロボットをテーマに作品を書いてるんで、一番心に響きましたね。作品テーマが『造られた者の自我と心』に有るのはすぐにみえてきたんで、それを曖昧にしないで作中でしっかりと捉えてラストシーンに結実させるポリシーを評価したいと思います。

 書き手にしっかりとした思想がないと落とせませんしねぇ。「こういう問題があるよ」というのは誰でも書けるのですが、「僕はこう答えたよ」までいける人は少ないし、それを説教臭くならないように書くのも至難の業で。  そういった意味では、抽象表現を一番上手く使えてたなと。

身長三センチの人妻




 僕としてはあの作品は、序盤が非常によく出来てるなぁと思っていまして。妻の性格描写がかなり上手いですよね。

 短編だと、キャラクターに関しては「○○はこういう性格で、例えばこの間の休日は~」といった感じで簡単に説明して終わらせることが多いんですよね。そのほうが字数の節約になりますし、短編だと描写の積み重ねが難しいので。  でもあの作品は説明的な部分はほとんどなくて、仕草や会話文で、およそどんな性格か伝えてくれている。これは僕には真似できないなぁと。

 そうですね。正直、妻としては欠点が目立つと言うか、旦那さんがそれに普段から振り回されてる様子が印象的でして……、それが奥さんが3センチになってしまったことで、悲しむよりも、さらに手間がかかることへの嘆きしか出ないという。あれが斬新で印象的でしたね。

 たしかに、旦那さんの細かい言葉選びからも、妻の性格が見て取れますね。なんか面倒臭がってるから「あ、これはコメディなんだな」というのがすぐに分かったり。

 そう! 旦那さんの〝愚痴〟を大々的に利用して、縮む前の奥さんの性格や欠点や可愛らしさを、事細か、かつ分かりやすく伝えてくれるんですよ  あれは小説としてもかなりの高等なテクニックです。やろうとして出来る手法じゃないです。

 だからこそ、読者をこの作品がコメディであると錯誤させることに見事に成功している。作者は相当な策士ですよ(笑) 。だからこそ、中盤での劇的な流れの変化には驚きました。 なんか、あれ? 変だぞ? と思いませんでした? 私はあれっ? とおもいました。

 シリアスな方向に入ったところですよね。あれは僕「あ、終わらせにきたな」と思っちゃいました。物語を綺麗に締めようとしすぎて、欲張っちゃったというか。

 なるほど。そう感じましたか。  私は素直に騙されたというか、旦那さんが自分自身の認識の違和感に気づいて、何か見落としてる事に気づいて焦る始める流れがすごい気に入ってます。

 そこから、奥さんが待っていると気づくところまでの3センチ奥さんの『ちゅーして!』がたまらなく可愛くて(笑) だからこそ、あの作品は、旦那さんだけにしか目がいかないか、奥さんにしか目がいかないか。あるいは二人の立ち位置の変化を交互に読めるかで、読者の感じる印象はかなり変わると思うんですよ。

 あー、僕としては旦那さんのほうに集中しちゃったかもしれませんね。おそらく作者さんとしては、どのキャラクターというか、2人の関係性にスポットを当てているのだろうとは思いましたが。

 身長三センチの妻はタイトルからしてコメディかと思ってましたけれど、二回ほど読み返してそういう意味だと気づくと面白い作品でしたね。

 私は夫視点ばかりに気を取られてましたけれど、後輩のさり気ないあの仕草とか言葉とか普通、意識してできるのかと思いました。もうちょい長かったらまた別の面白みがあったかもしれませんが、まとめ具合うまいですし。

 そうですか。その意味では冒頭部で、読者を作者自身の意図通りの〝視点〟に誘導できていたかどうかは、非常に微妙ですよね  三センチの奥さんが可愛すぎるが故に、そこで奥さんをコメディ担当で終わらせやすいというか。

 たしかに、奥さんのキャラは強すぎる気はしますね。ただそこが魅力なので、良いか悪いかはやはり微妙なのですが。キャラの作りや物語のテーマとかは、乙女向けの技法というか、女性作家的だなぁと思っていて。さっき僕が上げた特長がまさにそれなんですけども。なので男性読者だと読み違える可能性はあると思います。

 そうかぁ。その意味では読む人間を選びますね。そのあたりが点数が伸びきれなかった理由なのかもしれませんね。

 点数下げてたのは僕で申し訳ないんですけども笑。でも全部読んだ段階で、プレーオフ進出は十分可能性あるなと思ってました。キャラクターはもちろん良いと思うし、個人的には物語全体を通してのテーマ部分も気に入っているところでして。

 テーマは「結婚後の男女のすれ違い」だと思うのですが、キャラが強いわりには具体的な不満は提示されないじゃないですか。旦那さんはキスしない(でも愛してる)という時点で、奥さんへの愛情不足がそもそもの原因っぽいと思うんですよね。そういう昼ドラみたいなテーマを「チュー」に美味く置き換えていたのが好きで。

 伏線として一番印象に残っていたのが『奥さんの声』ですね。あれはちょっと意外だったというか、あれがラストへの流れの鍵になったのは面白かったですね。伏線が沢山、貼ってあったと思うのですが、その辺はいかがでしょうか?

 伏線に関しては、結構コメディ部分に騙されてしまいましたねぇ。今見ると序盤でも分かりにくいように、中盤以降の展開の伏線はありましたね。「奥さんいるのに、レンジでチンするご飯を使うんだ?」とか。ここは見落としてました。

 つまりそれが『奥さんが目覚めてない』一人で暮らしてる事への暗喩だったわけですよね。 あとから気づいて読み返すと驚かされますね。

 奥さんに異変が起きても仕事に行っちゃうところも、愛情不足の暗喩に見えますね。作中で「妻が三センチになったからって仕事休めるわけないだろ」と書いてますが、まぁ普通は休みますよね。

 そうですよね。それをオチの奥さんの昏睡が分かってから、仕事を休まずに働いている事を考えると、相当に奥さんに対して鈍感な男なんじゃないかと思ったりしてしまいますね。奥さんはその事に気づいてほしかったでしょうね。だからこそ、チューというシェチューションを何度も求めた。3センチと言うイリュージョンにまでなって。そのあたりの『私の愛情欲求に気づいて欲しい!』と言う切実さも読み取れるような気がします。

 旦那さんのほうも、愛してはいるんですけどね。その辺の心理描写を細かく、直接的に書いていたらやっぱり昼ドラになってたと思います。ぼかすのが上手かったですね。 (そう考えると、文章評価3.5点はちょっと低すぎたかなぁ……)

 まぁ、あの作品は採点は難しかったのは事実ですよ。読み解くといろいろな読み方ができますし、一筋縄ではいかない作品でしたから。

男になってしまった私と可愛い女性部下の攻防




 さて、クロスグリさんとしては、他にはどんな作品が印象に残ってますか?

「男になってしまった私と可愛い女性部下の攻防」ですかね。これはプレーオフ進出するだろうなと思っていたのですが、惜しかったですね。

 あれはワタシ的には惜しい作品でしたね。 作者的に何を言いたいんだろう? って疑問が最後まで拭え無かったです。性転換物なのか性差別提起なのか、娯楽作なのか社会派なのか、性転換物である事を強く推して物語が始まってるんですが、これ性転換を素材にする必要あった? って――。

 魔法世界のような背景があったのに、描写は完全に現代社会と大差なくて、性差別提起としてはよくできてるけど、じゃぁタイトルも含めて総合的に見た時に、考え込んでしまいまして。

 字数が足りなかったパターンでしょうかね。僕は単純な娯楽作品として読んでいて、様々な設定や問題提起はTS百合を引き立てるための道具としか見ていませんでした。

 こういうジャンルになってくると、イチャイチャするシーンしか書かない人が圧倒的に多いのですが、この作品は「はい、こういう世界です。キャラクターはこんなんです。テーマはこんな感じです」と、およそ必要なものは大体出してからイチャイチャしだすんですよね。個人的にはその丁寧さが気に入ってて。でも消化不良にはなっちゃいましたね。

 字数が足りない――、そうかもしれませんね。いわゆる短編の枠のサイズにまとめきれないと言うか――。自分はSF書きなのですが、特定ジャンルとしての前提を、ジャンル以外の読者の人にも分かりやすく説明しようとするとどうしても字数や前置きが大きくなりますね。そこからお話の本筋に入らないと行けないからなおさら文字数がかさばる。

 それを上手く削ぎ落としてコンパクトに纏める技量が必要なのですが、そこをもっと推敲を重ねても良かったのかもしれません。

 この作者さんは第2回の企画でもそんな感じで。掲載日を見る限り、今回もこの企画のために急いで書き上げたのだと思います。たぶん長編向けの方なんでしょうね。

 そう考えるともうちょっと頑張ってほしかったなと思います。 短編と長編は根本的に作り方が異なるので、短編はいかにコンパクトに纏めて不必要なものを削ぎ落とすか? それでいて中身の詰まったものとして完成させる必要があると思っています。

 長編慣れしてるとあれもこれもと入れたくなりますが、そのあたりの感覚の短編との違いをしっかりと身につけられればもっと伸びる作家さんだと思いますね。

 今回は「長編で書けばいいのに」というような作品は多かったですよね。そういう作品は「これが実際に長編だったら面白そうかな?」という視点で読んでいましたが、この作品は個人的に、特に楽しめそうだなと。

祭りの夜




 美風さんは他にどの作品が気になりましたか?

 私は一番印象に残ったのはやっぱり『祭りの夜』でしたね。個人的には一番、プレーオフ進出してほしかった。短編としてのまとまりの良さと言うのもありましたが、登場人物である人間と妖かしの親子の離れ離れになっていても、互いを思いやり、そしてそれがこの幸せになる。と言う人間ドラマ劇としての落とし込み方がたまらなく感動したんですよね。

 父と娘が永遠に離れて暮らしていても、それが悲劇とならないと言うラストシーン。こう言うドラマ的にキャラがしっかりしている作品はすきですね。ただそれだけに童話的な物語の構成を、物足りなく思う読者はいるでしょうとは思いましたが。

 世界観の組み立て方は結構上手いと思いましたね。ただ、説明的な文章が続きすぎていたのが個人的に気になってしまいまいまして。そこが少なければより雰囲気がよくなっただろうなぁと、ちょっと惜しく感じました。

 SFやファンタジーではよくある問題ですが、説明をしっかりしようとするとお話の本筋がおろそかになりやすい。逆に必要な情報を分かりやすくシンプルに伝えないと読者に飽きられるし、物語を楽しみたい読者からは敬遠されますよね。

 非常に難しい問題ですが、バランスの取れたベストな状態と言うのはたぶん無いと思ってます。やはり読む人のセンスや嗜好にも左右されますから。

 自分はSFを書くのですが、説明がくどいと言う人も居れば、逆に説明が足りないと起こる人も居ます。ほんとに多種多様です。最優選考に残った作品を見ていると、その辺んの説明と会話とお話の本筋のバランスのとり方が非常に絶妙な作品が多かったと思います。

 たしかに難しいところではありますよね。僕なんかはその匙加減は好き嫌いが激しいので、ついきつく評価してしまいます。

 でもそれは仕方ないというより普通の反応だと思います。ジャンルとして固有の嗜好の説明の深さ多さが、ジャンル外の読者の人達にも通用するとはかぎりません。

 私も自作品の傾向上、SFやファンタジーのレビューを依頼されるのですが、やはりジャンル外の人にも普遍的に読んでもらえる普遍さを持ちつつ、そのジャンルが好きな人も満足させられる適度な深さを持ち合わせている作品はなかなか出会えません。

 大抵は専門的な読者向けで諦めてる作者が大半です。でもそれをクリアしないと、より多くの読者に読んでもらう事はできないと思います。コレばかりは作家として執筆経験をつんで、一番いいバランスを自分自身でみつけるしかないのではと痛感しています。難しいです、小説を書くのって。ほんとそう思います。

最後に


 今回はプレーオフ進出作品と、審査員が注目した作品について座談会を開きました。Victorさんは本人の都合上、あまり参加できませんでした。

 ナロラボ杯での審査員は2回目ですが、今回は評価・コメントのつけ方に悩みました。一部の方々に対して、必要以上に厳しい評価をしてしまったり、後悔している部分もありました。座談会はそういったことにも気づけたりするので、審査員としても面白く、ためになります。

 審査員制にすると、どうしてもレビュアーの好みが出てきます。他の人からすると「この作品に対して、この評価は不当だろう」と思うことが多々あるかと思います。個人的にはそこが魅力だと思っていて、レビューの精度を上げすぎると運要素が少なすぎてイベントとしては面白味に欠けてしまいます。正確さが最重要であれば「それはAIに判断してもらえ」という話になりますし。

 しかし、審査員の評価・コメントによって損をしたり、過度なダメージを受けてしまう人がいるのも事実です。システムの善悪については「一長一短でしょ」としか言いようがありませんが、そういった方々をできるだけ減らすように考えていくのは、僕ら審査員の仕事であると思います。

 結局のところは「審査員も人間だから、好き嫌いはあるし、個人の思想があるし、たまにエラーする」ということを皆さんにご理解いただき、温かい目で見守ってもらう他に方法はなかったりします。僕らレビュアーも勉強に励んでいる側の人間です。自分なりの正しさを追究し、人々の糧となるよう尽力しておりますので、これからも応援よろしくお願いします。



この記事を書いた人

運営者:クロスグリ


 小説家志望の元ライター。
 プロの小説家になるべく、日々勉強しながらサイト運営しています。
 作品の下読み依頼や、個別相談(創作カウンセリング)等も受け付けています。
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