第23回電撃大賞の受賞作品について、どんなジャンルが選考通過しているのか調査・考察してみました。異世界転生物やVRMMOは厳しいようです。
大賞作品はSFファンタジーとラブ・ストーリー
電撃大賞受賞作品
2016年10月07日(金)にて電撃大賞公式サイトから、第23回電撃大賞の受賞者が掲載されました。
大賞受賞作品は麻里アサトさんの『86―エイティシックス―』と、佐野徹夜さんの『君は月夜に光り輝く』です。戦争に駆り出される少年、死期が近い少女……他の作品もそうですが、ディストピアだったり何かしら終末的な要素が強い印象。
SFファンタジー、ミステリー、ラブコメ、ラブ・ストーリーと、ラノベではおなじみのジャンルが並んでいますね。ヒューマンドラマ要素が強いのも、電撃文庫らしいところです。
しかし、中世っぽい世界観がないのが意外(『賭博師は祈らない』は18世紀末なので近世)。剣と魔法物も見当たらず……というか、異世界物が全然見当たりません。
異世界が生き残らなかった理由
1次選考通過作品を見ると、「異世界」や「転生」を入れているタイトルは4作品ほど。この時点で少なすぎるくらいですが、3次選考になると「異世界」の文字は消えていました。
小説投稿サイトでトップの集客数をもつ「小説家になろう」では、異世界ファンタジーやVRMMOが大人気……というのは周知の事実。「カクヨム」や「アルファポリス」でも需要が高く、ネット上ではweb小説を代表する巨大ジャンルです。
異世界物の作品は、絶対に多かったはずです。1次選考の時点でほとんどが落とされたとしか考えられません。なら、なぜ選考に残らなかったのでしょうか?
単純に、見飽きたからなんだろうなぁ
その人の素顔|花村萬月(作家)×池上冬樹(文芸評論家) 対談 「本を読むより体験すること。プロになりたいのなら、脳に負荷をかける読書を」
――ぼくも新人賞の予選委員や下読みをたくさんやってますけど、エピゴーネンが多いですよね。その時の流行がすぐわかりますよ。今年はコレか、と。昔は村上春樹が多かったし、北方謙三さんも多かった。最近は伊坂幸太郎が多いですね。そのとき一番の人気作家の影響を受けて書いてるんだな、とよくわかりますね。
花村 それじゃあねえ、絶対に取れないですよ。小悧巧な人はバカよりも始末に負えない。
――やっぱりね、現役でバリバリやっている作家の真似をしちゃダメですよ。大きな壁があるんだから。僕は何度も言ってるんですけど、死んだ作家の穴を埋めるのがいちばんいいですね。開高健とか吉行淳之介は難しいけど。たとえば立原正秋の後継者はいないんですよ。そういった、亡くなった作家の後継者を自任するぐらいの、穴を埋めるぐらいならいいんです。
(小説家になりま専科より引用)
リンク先に掲載されている対談は新人賞を応募するうえで参考になる話が多いので、一読をオススメします。
「小説家になろう」で無職転生が登場してから4年。異世界物の粗製乱造は留まるところを知らない勢いで、現在も量産され続けています。
そりゃ下読みや選考員の方々も辟易するでしょう。異世界物を書かせるなら新人よりも、既存のプロ作家に頼んだほうが良いですしね。
時代の転換期? 今後人気が出てくる小説とは?
個人的に「電撃文庫は新たなテーマに着目しているのではないか?」という気がしています。
異世界物の醍醐味は「変身願望」であると僕は考えています。現実世界から離れた舞台で、「普通なら成し遂げられない夢」を映し出せる。窮屈な現代社会、自分の立場と比較して「世界がこうあったら良いのになぁ」と浸れるのが魅力なんですね。
変身願望というと、新海誠監督の『君の名は。』も当てはまります。作中で主人公の女子高生が「異性になりたい」という変身願望を叶えさせましたね。しかし、中盤でそれが壊れてしまいました。
変身願望を叶えた人は、それらが「いつか消えるもの」だと気づきます。
じゃあ次はどこに行くのか?
何に心理的欲求を満たそうとするのか?
その回答のひとつが、ディストピアなのかもしれません。
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